宇治拾遺物語『平中が事』現代語訳とあらすじ!顔が墨だらけの真相
平安時代屈指のプレイボーイとして名高い平貞文(たいらのさだふん・通称:平中)のドジな大失敗を描いた古典の名作、宇治拾遺物語の『平中が事』。高校の古文教科書や定期テスト、大学入試の説話分野でも頻出の定番エピソードです。
どれほど口説いてもなびかない才女「本院侍従」をなんとか口説き落とそうと、平中が仕掛けた渾身の“嘘泣き作戦”がまさかの大惨事を引き起こします。なぜ彼の顔は真っ黒に染まってしまったのか、その滑稽な結末の真相から、テスト対策に直結する品詞分解・重要単語の意味までわかりやすく解説します。
📌 【この記事の重要ポイントまとめ】
- 要点1:ガードの堅い才女・本院侍従を落とすため、平中は「嘘泣きで同情を引く」奇策を決行した。
- 要点2:暗闇の中で指を浸した器が「墨水」だったため、涙をぬぐうフリをして顔中を真っ黒に塗りたくる自爆劇となった。
- 要点3:侍従の見事な機転の和歌と平中の赤っ恥を通じ、平安貴族の恋愛観と説話文学特有のユーモアが味わえる。
【3分でわかる】『平中が事』のあらすじと主要登場人物
まずは物語の全体像を把握するために、主要な登場人物の関係性と大まかなストーリーを押さえましょう。平安時代の恋愛事情を知る上でも非常に興味深い構図となっています。
【主な登場人物】
- 平貞文(平中 / へいちゅう):平安前期の実在の貴族・歌人。在原業平と並ぶ希代の色好み(プレイボーイ)として知られるが、どこか詰めが甘くコミカルな逸話が多い。
- 本院侍従(ほんいんのじじゅう):宇多天皇の皇女などに仕えたとされる才色兼備の女性。平中からの熱烈なアプローチを軽やかにかわし続ける鉄壁のガードを誇る。
百戦錬磨のはずの平中は、どうしても手に入らない本院侍従に執着し、幾度となく手紙を送り続けます。しかし侍従は冷淡にあしらうばかり。プライドを刺激された平中は、ある夜「一世一代の芝居」を打つことを決意します。「あなたの冷たさに私はこれほど泣いている」とアピールし、情に訴えかけようとした平中でしたが、その浅知恵が前代未聞の悲劇を招くことになります。
【原文・口語訳】『宇治拾遺物語』平中が事の全編現代語訳
授業の予習やテスト対策に役立つ、原文と口語訳(現代語訳)の対照テキストです。ストーリーの流れに沿って4つの場面に分けて解説します。
場面1:平中の執着と侍従の塩対応
【原文】
平中、本院侍従をよばひわたりけるに、いと心憂くあしらひて、逢ふこともなくて年ごろになりにけり。
【現代語訳】
平中が本院侍従に求婚し続けていたのだが、(侍従は)実に冷淡にあしらって、男女の契りを結ぶこともないまま何年も経ってしまった。
場面2:一世一代の「嘘泣き作戦」
【原文】
平中、「いかでこの人を言ひたらしてむ」と思ひて、ある夜、忍びてまかり寄りて、言ひ寄りけるに、なほつれなくて、格子引き上げて物語などしけるに、平中、「いみじく恋ひ泣く気色を見せばや」と思ひて、硯の水を指につけて、目につけつつ泣く真似をしけり。
【現代語訳】
平中は、「なんとかしてこの女を言いくるめてやろう」と思って、ある夜、人目を忍んで(侍従の邸に)近寄り、口説いたのだが、侍従は相変わらず冷淡で、格子を少し引き上げた隙間から世間話などをするだけであった。そこで平中は、「ひどく恋い焦がれて泣いている様子を見せたい」と思い、硯(すずり)の水を指につけては目元に塗り、嘘泣きをした。
場面3:暗闇の悲劇!水ではなく「墨」を顔中に
【原文】
暗きほどなれば、硯の水とて指をさし入れたりけるは、墨を濃くすり入れたりける水なりけり。それを知らずして、指をひたしては目に押しあて、頬にぬりまはしつつ、「これほどにこそ泣かるれ」と言ひて、顔を見上げたるに、墨にて顔はいと黒くまだらになりたり。
【現代語訳】
薄暗い夜のことだったので、硯の水だと思って指を突っ込んだ器は、実は墨が濃くすり込まれた水であった。平中はそれに気づかず、指を浸しては目元に押し当て、両頬に塗りたくっては、「これほどまでに涙がこぼれるのです」と言って顔を見上げたところ、墨のせいで顔中は真っ黒なまだら模様になっていた。
場面4:侍従の痛烈な一首と平中の逃走
【原文】
侍従、あさましうをかしくて、笑ひを忍びて、燈火を近く引き寄せてこれを見るに、まことに見苦しきこと限りなし。侍従、硯引き寄せて、紙に書きて差し出だしたる歌、
「言ひ出づる言葉につけて流るらむ 墨染川の底の心は」
平中、これを見て、あやしと思ひて手を見れば、墨にて真っ黒なり。顔を手探りに撫づれば、手も顔もみな黒くなりぬ。あさましう恥づかしくて、逃げ出でて去ににけり。
【現代語訳】
侍従は、呆れると同時におかしくてたまらず、笑いをこらえながら灯火を近くに引き寄せてこれを見ると、本当に見苦しいことこの上ない。侍従は硯を引き寄せて、紙にさらさらと書きつけて差し出した歌、
「あなたが口にする言葉につれて流れているのは、墨で染まった涙川なのでしょうか。(墨染川のように真っ黒なあなたの本心が丸見えですよ)」
平中はこれを見て、変だなと思って自分の手を見ると、墨で真っ黒である。顔を手探りで撫でてみると、手も顔もすっかり黒くなってしまった。あまりの情けなさと恥ずかしさに、平中は一目散に逃げ出して立ち去ったのであった。
なぜ顔が墨で真っ黒に?平中が大失敗した「嘘泣き作戦」の真相
この物語最大のハイライトであり、読者が最も気になる疑問が「なぜ平中は顔中を墨で真っ黒にしてしまったのか」という点です。その滑稽な自爆劇の背景には、平安時代の夜の薄暗さと平中の焦りがありました。
平安貴族の夜の密会は、わずかな灯火や月明かりを頼りに行われるのが常でした。侍従の気を引きたい一心だった平中は、格子のすぐそばに置かれていた器に手を伸ばし、目薬のように水を目元につけて「涙」を偽装しようと試みます。
しかし、彼が指を突っ込んだのはただの水入れではなく、「濃く墨がすられた硯の水(筆洗の水)」でした。平中は暗がりの中で焦っていたため、液体が黒いことにも、墨特有のにおいにも気づきません。指を何度も浸しては、涙をぬぐう熱演を繰り返しながら顔全体に塗りたくってしまったのです。
本人は「涙に濡れた情熱的な男」を演じきったつもりで顔をキリッと見上げたものの、侍従の前に現れたのは顔中が墨でドロドロに汚れた異様な姿でした。灯火で照らされた自分の姿に気づいた瞬間の絶望感は、古典文学の中でも屈指のギャグシーンとして語り継がれています。
【テスト対策】『平中が事』頻出の重要単語・文法と品詞分解
定期テストや大学入試で頻出する重要古語の意味と、文法上の重要ポイントを品詞分解を交えて整理しました。
1. テストによく出る重要古語と意味
- よばふ(呼ぶ・婚ふ):求婚する、言い寄る(「呼ぶ」の反復・継続の動詞)。
- 心憂し(こころうし):情けない、不快だ、冷淡だ。
- 年ごろ(年頃):長年、数年の間。
- つれなし:平然としている、冷淡だ、素知らぬ顔をしている。
- あさまし:驚きあきれるほどだ、情けない。
- をかし:滑稽だ、おかしい、趣がある。
- 去ぬ(いぬ):立ち去る、去っていく(ナ行変格活用動詞)。
2. 頻出文法の品詞分解と解説
【注目文節1】「いみじく恋ひ泣く気色を見せばや」
- いみじく:形容詞「いみじ」連用形(ひどく、大変)
- 恋ひ泣く:カ行四段動詞「恋ひ泣く」終止形
- 気色(けしき):名詞(様子、表情)
- を:格助詞
- 見せ:サ行下二段動詞「見す」未然形
- ばや:終助詞(〜したい・自己の願望)
- ※ポイント:「未然形+ばや」は自己の願望を表す超頻出構文です。
【注目文節2】「墨を濃くすり入れたりける水なりけり」
- すり入れ:ラ行下二段動詞「すり入る」連用形
- たり:存続の助動詞「たり」連用形
- ける:過去の助動詞「けり」連体形
- 水:名詞
- なり:断定の助動詞「なり」連用形
- けり:詠嘆の助動詞「けり」終止形(〜であったのだなあ)
定期テスト・入試で差がつく予想問題と解答のコツ
テストで高得点を狙うために、よく狙われる設問パターンとその模範的な解答アプローチを把握しておきましょう。
問題1:侍従が詠んだ和歌の掛詞(かけことば)と意味を説明せよ
【解説と解答のコツ】
侍従の歌「言ひ出づる言葉につけて流るらむ 墨染川の底の心は」には、以下の修辞技法が含まれています。
- 墨染川(すみぞめがわ):実在の川の名前(現在の京都府を流れる川)と、「墨に染まった涙」を掛けている。
- 底の心:川の「底」と、平中の「心の奥底(本心)」を掛けている。
- 解答のポイント:「平中が流す涙が墨で真っ黒であること」をからかい、「あなたの言葉の裏にある本心も墨のように汚れて不誠実なものだ」と見抜いて皮肉っている点を簡潔にまとめます。
問題2:平中が逃げ出した理由として最も適切なものは何か?
【解説と解答のコツ】
単に「墨がついたから」ではなく、「嘘泣きをして相手を騙そうとした浅ましい企みが完全にバレてしまい、自らの醜態を晒したことが耐えられないほど恥ずかしかったから」という心理描写まで言及することが高得点の条件です。
平貞文(平中)とは何者か?『平中物語』や平安貴族のリアル
平貞文は、平安時代前期(9世紀後半〜10世紀初頭)に実在した貴族です。『古今和歌集』に和歌が入集するなど歌人としての実力も確かでしたが、後世には『平中物語』の主人公として、また『今昔物語集』や『宇治拾遺物語』などの説話集の中で「どこか憎めない好色男」の代表格として描かれました。
同じく平安のプレイボーイとされる『伊勢物語』の在原業平が「雅(みやび)で情熱的な理想の貴公子」として描かれるのに対し、平中は「必死に口説くものの裏目に出て恥をかく道化役」として描かれることが多いのが特徴です。
完璧な美男美女の恋愛譚だけでなく、こうした人間の愚かしさや滑稽さをユーモラスに切り取る視点こそが、説話文学『宇治拾遺物語』の大きな魅力となっています。
【平中が事の現代語訳】に関するよくある質問(FAQ)
Q1:平中の読み方は「たいらのさだふん」ですか?「へいちゅう」ですか?
A1:歴史上の人物としては「平貞文(たいらのさだふん)」ですが、説話や文学作品の通称としては「平中(へいちゅう)」と音読みされるのが一般的です。テストではどちらの表記が出題されるか問題文を確認しましょう。
Q2:なぜ侍従の部屋に「墨水」が置いてあったのですか?
A2:平安貴族にとって手紙や和歌を書くことは日常的な行為であり、部屋には硯や筆洗(筆を洗う器)が身近に置かれていました。侍従が平中を罠にかけるためにわざと置いたとする説や、偶然置かれていた筆洗の水を平中が勘違いしたとする解釈があります。
Q3:『宇治拾遺物語』と『今昔物語集』の「平中が事」に違いはありますか?
A3:基本的な筋書きはほぼ同じですが、細かな心理描写や和歌の扱われ方に若干の違いがあります。教科書で扱われるのは主にテンポが良く洗練された『宇治拾遺物語』の文章です。
まとめ:古典『平中が事』が今なお愛される理由と学習の要点
『宇治拾遺物語』の「平中が事」は、千年以上の時を経ても色あせない人間の可笑しみと、平安貴族の知的なユーモアが詰まった傑作です。嘘泣きで相手を騙そうとした結果、顔中を墨で真っ黒にして自滅するというストーリーは、現代のコメディにも通じる普遍的な面白さを持っています。
古典学習においては、あらすじの面白さを楽しみつつ、「〜ばや」などの助詞・助動詞の識別や、侍従が詠んだ和歌の掛詞・心情理解をセットで押さえることが確実な得点力アップにつながります。重要語句とストーリーの流れを完璧に整理し、自信を持ってテストや入試に臨みましょう。 (出典: 平 中 が 事 現代 語 訳(Yahoo!ニュース))